オフェンスとプレーモデル

理想

 プレーヤー全員が認知・判断・実行に優れ、プレーモデル無しで堅実かつ効率的に得点できることが理想である。しかし、実現されないのが理想であり、ならば我々は次善の策というものを考えなければならない。

現実

 セレクションというものが行われることが殆どなく、他のスポーツと比べてプレー年数の短いプレイヤーが比較的多い日本のアルティメット界において、完璧なプレイヤーを7人以上揃えることは困難である。チームに所属するプレイヤーは多くの場合、認知・判断・実行のいずれか、もしくは複数に問題を抱えているだろう。

次善の策

 実行において劣るならば反復練習によって精度を上げることは出来る。しかし認知や判断の力を急激に高めることは難しい。ならばチーム全体として認知や判断を補う策が必要である。

プレーモデル

 プレーモデルは言わば認知・判断へのドーピングである。本来ならばコート上の14人のポジショニング、動き、個々の実力などの情報を手に入れて一瞬で自分が行うべきプレーを選択することが求められるところを、プレーモデル制は極度に単純化してくれる。認知・判断における負担が減れば実行へより多くのリソースを割くことが可能になる。しかも、プレーモデルによって狭められた選択肢のみに重点を置いてトレーニングを行うので、漫然と行うよりも効率的なトレーニングとなる。

問題点

 プレーモデル制の採用はまるで良いことづくめにも思えるが欠点もある。個々の認知・判断への軽視は、プレーモデル自体が破綻した時に大きな問題となる。プレーモデルを相手に認識され効果的な対策を取られた場合や、圧倒的な身体能力の差などの理由でプレーモデルの遂行ができなくなった場合に、個々の認知・判断が優れていればプレーモデルを一旦放棄し個々に任せることができるが、プレーモデルに頼りきったプレイヤーにそれを求めることは難しい。

まとめ

 現実的にプレーモデル制を採用することのメリットは大きい。現在のチームの状況、プレイヤーの資質に合致したプレーモデルを組み上げることが出来れば、プレーモデル制を取らない場合よりも良い結果が得られるだろう。しかし、その弊害としてプレーモデル制は個々の認知・判断力の成長を阻害する要因ともなりかねない。プレーモデル自体が破綻した場合に、その問題は顕在化するであろう。
 また、あるプレーモデルの中でのみ育ったプレイヤーは他の環境に適応するまで時間がかかる可能性が高い。チームとして短期的に見ればプレーモデル制の採用は非常に効果的であるが、後に他の環境へ移る可能性のある個人(特に世代別の代表への選出や社会人チームへの加入を目指す学生など)にとって、プレーモデルに依存しきったプレーをすることはその後の伸び悩みなどに繋がりやすい。
 これらの点を理解した上でチームの運営者はプレーモデル制を敷くことが望ましい。また個人の認知・判断を効果的に育成できる方法も考えていくべきである。  

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